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名古屋地方裁判所 平成2年(わ)652号 判決

本店所在地

名古屋市西区清里町一八番地

大昭工業株式会社

(右代表者代表取締役 木村一太)

本籍

同市千種区豊年町一五〇九番地

住居

同市西区大野木四丁目三九〇番地の一

会社役員

木村一太

昭和一五年一月七日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官宇井稔出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人会社大昭工業株式会社を罰金二三〇〇万円に、被告人木村一太を懲役一年に処する。

被告人木村一太に対し、この裁判確定の日から三年間、その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人会社大昭工業株式会社(以下「被告人会社」という。)は、名古屋市西区清里町一八番地に本店を置き、し尿浄化槽の清掃維持及び水道管更生工事等を目的とする資本金一〇〇〇万円の株式会社であり、被告人木村一太(以下「被告人」という。)は、同会社の代表取締役として、同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人は、被告人会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空会社や倒産会社の名を使用して架空外注加工費等を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、

第一  昭和六一年三月一日から昭和六二年二月二八日までの事業年度における被告人会社の実際の所得金額が九四三七万三〇二五円であつたにもかかわらず、同年四月三〇日、名古屋市西区押切二丁目七番二一号の所轄名古屋西税務署において、同税務署長に対し、所得金額が七九七万三三〇〇円で、これに対する法人税額が二一八万八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により、被告人会社の右事業年度における正規の法人税額三九五八万八七〇〇円と右申告税額との差額三七四〇万七九〇〇円を免れ、

第二  昭和六二年三月一日から昭和六三年二月二九日までの事業年度における被告人会社の実際の所得金額が七二〇五万一五二八円であつたにもかかわらず、同年四月二三日、前記名古屋西税務署において、同税務署長に対し、所得金額が七九五万六〇三七円で、これに対する法人税額が二二九万六三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により、被告人会社の右事業年度における正規の法人税額二九二一万九〇〇円と右申告税額との差額二六九一万四六〇〇円を免れ、

第三  昭和六三年三月一日から平成元年二月二八日までの事業年度における被告人会社の実際の所得金額が五一八七万八一二五円であつたにもかかわらず、同年五月一日、前記名古屋西税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が七五三万九六四二円で、これに対する法人税額が二二〇万三七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により、被告人会社の右事業年度における正規の法人税額二〇七七万七〇〇円と右申告税額との差額一八五六万七〇〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する各供述調書

一  木村孝子の検察官に対する平成二年四月二六日付け供述調書

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書説明資料

判示冒頭、第一、第二の事実について

一  小笠原かおりの大蔵事務官に対する質問てん末書

判示冒頭、第三の事実について

一  小林宏及び木村孝子(同年四月二三日付け)の検察官に対する各供述調書

判示冒頭の事実について

一  名古屋法務局登記官作成の登記簿謄本

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(検察官証拠請求番号甲2)及び証明書(同甲13)

判示第二の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(同甲3)及び証明書(同甲14)

判示第三の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(同甲4)及び証明書(同甲15)

(法令の適用)

一  被告人について

被告人の判示各所為は、いずれも法人税法一五九条一項に該当するので、所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役一年に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

二  被告人会社について

被告人の判示各所為はいずれも被告人会社の業務に関してなされたものであるので、同会社に対し、判示各罪についていずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項及び情状により同条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内で被告人会社を罰金二三〇〇万円に処することとする。

(量刑の理由)

本件は、し尿浄化槽の清掃維持及び水道管更生工事を主な業務とする被告人会社の代表者である被告人が、被告人会社に関し、三事業年度にわたり合計八二八八万九五〇〇円の法人税を免れた事案である。ほ脱税額は右のとおり多額であり、ほ脱税率も平均で約九〇パーセント以上と極めて高率である。犯行態様も、経理を担当している妻に対し倒産会社等の名を用いて架空外注加工費等の計上を指示したり、会計事務所員から正当に税金を支払うように忠告されたにもかかわらず同所員に申告所得を八〇〇万円以下にするように指示するなど大胆かつ悪質である。更に犯行の動機をみるに、本件は、苦労して稼いだ金を税金として取られてしまうのを嫌つて、被告人が他に経営する会社の資金繰りに充てたり、自らの交際費等に充てるために敢行されたものであつて何ら酌量の余地はなく、その上自宅に高価な装飾品を置くなど脱税による利得をかなり私的に消費していることも窺われる。加えて、このように不正に税を免れる行為は大多数の善意の納税者の納税意欲を阻害するものであつて、社会に及ぼした影響も決して小さいものではなく、以上の点にかんがみれば、被告人及び被告人会社の刑事責任は重いといわなければならない。

しかし他方、被告人が、捜査段階当初から犯行を認めその意味では反省悔悟していると認められること、重加算税を除いて違反に伴う修正本税、延滞税を納付済みであること、被告人会社が名古屋市水道局等から一か月間の指名停止処分を受けるなどの社会的制裁を受けていること、被告人には業務上過失傷害などの罰金前科二犯があるのみで他に前科前歴がないことなど被告人らに有利に斟酌するべき事情があるので、これらをも考慮した上、被告人らを主文掲記の各刑に処し、被告人についてはその刑の執行を猶予することとした。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大山貞雄 裁判官 半田靖史 裁判官 山崎秀尚)

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